はじめに
極限早繰り銀戦法は相居飛車戦で使われる戦法で、プロ棋士の佐藤慎一五段が公式戦で多用しています。
佐藤五段による書籍も出版されており、何度も増刷されるヒット作となりました。
極限早繰り銀戦法は駒組みがわかりやすく、アマチュアでも得意戦法として取り入れやすいので一躍人気戦法となりましたが、プロ公式戦のある一局が衝撃を与えました。
それは2018-07-19に指された、第77期順位戦C級2組2回戦の大橋貴洸四段対佐藤慎一五段戦です。
その対局は下図のような序盤の早い段階での速攻策でした。
この将棋は45手までで先手の大橋四段が快勝し、対極限早繰り銀の速攻策として広く知られるようになりました。
今回の記事では将棋倶楽部24のJKishi18gouの将棋を題材として、大橋四段の指した仕掛けに類似した極限早繰り銀対策の速攻のコビン攻めを見ていきたいと思います。
極限早繰り銀対策の速攻のコビン攻め 実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
https:/shogi.io/kifus/235886
開始日時:2019/01/12 22:58:22
棋戦:R対局(早指2)
先手:JKishi18gou(3265)
後手:後手
(初期局面)
(初手からの指し手)
▲2六歩 △8四歩 ▲7六歩 △8五歩 ▲7七角 △3二金 ▲2五歩 △6二銀(下図)
7手目▲2五歩までは角換わりの将棋でよくある進行ですが、そこで8手目に△3四歩ではなく△6二銀とするのが極限早繰り銀を目指す第一歩となる一手です。
(上図からの指し手)
▲6八銀 △1四歩 ▲3八銀 △7四歩(下図)
後手の△1四歩はのちに角を1三に上がる手を用意した一手です。
▲3八銀に対して△7四歩としたのも極限早繰り銀を目指した構想で、この後△7三銀~△6四銀と銀を繰り出していくのが狙いです。
(上図からの指し手)
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △7三銀 ▲7五歩(下図)
本局の先手は極限早繰り銀に対して速攻を狙っているので▲2四歩として動きます。
以下▲同飛まで進んだ局面で後手は△7三銀と上がりました。
これは前に△1四歩とした手を生かそうとしたもので、△1四歩がないと▲2三歩で角が捕まってしまいます。
しかし、先手には用意の仕掛けがありました。それが▲7五歩です。
(上図からの指し手)
△同 歩 ▲7四歩 △6四銀 ▲9五角(下図)
▲7五歩は次に▲7四歩とされてはいけないので△同歩と取るよりないですが、続いて▲7四歩のコビン攻めが厳しい追撃です。
▲7四歩に対して△6二銀と引くのは以下、▲5五角△9二飛▲2二飛成△同銀▲4六角打(参考図)として先手が有利です。
参考図以下
次に▲9一角成が厳しい狙いとなっています。
また、▲7四歩に対して△8四銀も以下、▲2二飛成△同銀▲5五角△9二飛▲4六角打と同様の手順で進めて先手有利となります。
よって本譜は▲7四歩に対して△6四銀と上がりましたが、今度は▲9五角として端に角が出る筋が生じました。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△4二玉 ▲6四飛 △同 歩▲7三歩成 △9二飛 ▲8三銀(下図)
▲9五角は厳しい一手です。仮に△6二金と受けると▲6四飛△同歩▲7一銀(参考図)で先手勝勢となります。
よって△4二玉は仕方のないところですが、先手は追撃の手を緩めず▲6四飛~▲7三歩成と攻め立てます。
▲7三歩成に対して△5二飛とするのは▲6二銀(参考図)が好手で先手勝ち筋です。
ポイント
後手はのちに飛車を取られそうな展開で厳しい形勢です。
また、▲7三歩成に△同桂▲同角成△5二飛も▲7四桂としておいて次に▲6二銀を狙えば大丈夫です。
本譜は▲7三歩成に対して△9二飛としましたが、▲8三銀でやはり後手の飛車が捕まっています。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△3四歩 ▲9二銀成 △同 香 ▲8二飛 △3三玉 ▲8一飛成 △5二金 ▲9二龍(下図)
局面が優勢な時の考え方として、難しい手は指さずにわかりやすい手を指し続けるという考え方があります。
本局の先手はまさにその考えに沿っていく将棋です。
飛車を取った後は自然に桂香を取り、駒得を果たしました。
(上図からの指し手)
△4二金右▲6三と △2三玉 ▲5二と △9九角成 ▲4二と △同 銀 ▲5一角成 △同 銀 ▲2七香(下図)
先手はと金を活用して相手の金と交換することに成功しました。
その後、▲5一角成は派手な一手ですが、△同銀に▲2七香が継続の厳しい攻めです。
(上図からの指し手)
△3三玉 ▲4五桂 △4四玉▲3二龍 △4二銀打 ▲2一香成 △2八歩 ▲4六桂 △3三香 ▲同桂成 △同 銀 ▲4五香(投了図)
まで57手で先手の勝ち
先手が序盤から速攻を決めて快勝しました。
投了図以下
①△同玉には▲3六金 △5五玉 ▲5六金 △4四玉 ▲4五金右まで。
②△3五玉には▲3六金 △2四玉 ▲2三金 △1五玉 ▲1六歩までの即詰みです。
この将棋の総棋譜は以下から
極限早繰り銀対策の速攻のコビン攻め まとめ
極限早繰り銀は有力な戦法ですが、本譜のような仕掛け筋は対策として優秀なので対応策を用意する必要があります。
▲7五歩~▲7四歩が急所の攻めで、△6二銀や△8四銀には▲5五角、△6四銀には▲9五角が厳しい狙いです。
以下はと金を作りながら相手の飛車を狙っていけば自然と勝利に近づくでしょう。
このコビン攻めの指し方は、対策をしらない相手には面白いように決まります。
どんどん実戦で使っていき、怒涛の攻めを繰り出していきましょう。
▲75歩には▽23歩と受けておいて?
Tさま
△2三歩にはかまわず、▲7四歩として以下①△6二銀や△6四銀なら▲2五飛、②△2四歩なら▲7三歩成△同桂▲7四歩△6五桂▲5五角といった手順で先手優勢です。